腕時計の示す時刻は、既に四時半をすぎていた。
 もうとっくに、冴島に愛想をつかして帰っているはずの時刻だった。しかし、この状態では帰ろうにも帰ることが出来ない。この広場から出られなければ、駅の中へ入ることも出来ないのだ。
 本日、駅で消費した時間、三時間五十分以上。そのうちの五十分ほどは冴島を待っていたわけではないが。

 冴島数彦。唐突に彼への怒りが湧いてきた。
 冴島が私を待たせることがなければ、今私はこんなところで妙な現象に巻き込まれている事もなかったのだ。
 冴島が時間どおりにさえ来ていれば。
 いや、そもそも私のことを誘ってくれなければ良かったのだ。
 八つ当たりだということはわかっている。しかし、この状態では八つ当たりでもしないかぎり、感情の落ち着けようがない。だから私は心の中で冴島にあたりちらした。

 こんの頭でっかち。口ばっかり。遅刻魔。大馬鹿者。うすらとんかち。こんこんちき。へっぽこ。

 なんだかむなしくなってきた。
 こんな事をしていても、冴島はここには来ない。例え私が今南口にいることを知ったところで、この状態ではおそらく、冴島も広場の中に入ってこられないだろう。入ってきても、ふたり一緒に出られなくなって、困惑するだけだ。
 それとも案外、彼自身、北口のほうで似たような現象にあっていたりするのだろうか。それならまだ面白いかもしれない。
 けれど、やっぱり私をあれだけ待たせた冴島に対する怒りはおさまりそうになかった。
 昨日は楽しみで眠れなかったというのに。映画を見ることも、脚本を読むことも出来ずにこんな所に閉じ込められている。私の怒りも当然だろう。
 少なくとも冴島数彦は、私のことを誘っておきながら、三時間以上遅刻した。それに対して私が怒るのは、おそらく不当な事ではない。
 幸い、ここには人がいない。それに、私はこれだけ捻じ曲がった空間にいるのだ。私自身が少しくらい捻くれていたって、悪い事はないだろう。
 この言葉のどこまでが正しいのかわからないが、私は既に正常な判断力を無くしているのだ。仕方ない。こんな場所で正常な判断力などあっても役に立たないのだ。

 すうっ。私は思い切り息を吸い込んで、腹に力をこめた。中学校の頃、演劇クラブでつちかった発声だ。

「冴島のばかやろー!なんで来ないんだよー!!」

 突然大声を出したので、酸欠気味になる。
 くらくらする頭の片隅で、冴島の顔を思い出していた。つり気味な目が特徴的な、どちらかといえば目立つ顔だち。
 しかし、その細部をありありと思い浮かべる事は出来なかった。ピントのあっていない写真のように、どこかぼやけていた。大きく息をしながら、その場に座り込む。

「あの人はまだ来ない。まだ来ない。まだ来ない。早く私を助けに来て」

 私の叫び声に呼応するように、誰かの声が聞こえた。歌うような女の声だった。

「まだ来ない。あの人。私の運命の人。早く私を助けて。助けて」

 あまりにも自分の気持ちにそっくりの言葉だったので、なんの違和感も感じなかったが、よく考えてみるとおかしい。ここには誰もいなかったはずなのに、この声の主は一体誰なのだろうか。

「引き離されてしまった私の恋人。早く私を助けに来て。私をここから解放して。」

 周りを見渡してみても、やはり誰もいない。こんな声を発する事が出来るようなものはどこにもないはずだ。少なくとも、私の常識の範囲内では。

「たすけて、たすけて、あなたに会いたい。私の恋人」

 常識を捨て、自分の視覚と聴覚のみに頼るのならば、その歌声は、あきらかに、広場の中央に立っている少女の像から聞こえていた。けれど、そんな事はありえるのだろうか。
 まさかあの少女の中に、スピーカーが内蔵されているなどということもないだろう。
 まあ、現在いる場所の設定が私の常識をすでに超えてしまっているのだ。この際、あと一つや二つの不思議には目をつぶっておく。
 私は恐る恐る、その像に近寄っていった。出来る事ならば、言葉を話す像などという怪談じみたものには一切近づきたくない。そんなものはホラー小説の中に出てくるだけで充分だ。学校の七不思議でもう満腹だ。
 だが、あの像はおそらく、この状況から抜け出すためのヒントなのだろう。私の、活字中毒者としての勘がそう言っている。
 ここであの歌を無視してしまえば、もうこの広場から抜け出す道はなくなるのではないかという恐れもあった。私は、少女の像をじっくりと観察してみる。
 少女の背丈は私よりも二十センチメートル以上高い。確かに私も長身な方ではないが、それでも彼女の背は女の子にしては大きいといえる。私の生まれるずっと前、H駅が初めて改築された時に、一緒に作られたという像は、何度も雨風にさらされた事だろう。

「あんたも誰かを待ってるんだ」

 私は出来るだけにこやかに話し掛けた。彼女が動き出して、私の首をしめようとしたら怖い。こんな事を想像していると現実になってしまうかもしれないと、自分を叱る。心配しなくともそんなことはないだろうが、警戒しておくに越した事はない。

「私も、人を待ってるの。もう四時間になる。全く嫌になるよ」

 少女の像は一瞬眉をひそめ、その後微笑んだ。もちろん像は動けないはずなので、あくまでも、そういう風に見えたということだが。

「私はあの人を待っています。引き離された恋人をここで待ちつづけているのです。もう、何十年も」
「何十年?」

 それはまた気の長い事だ、と私は思った。私の四時間などとは比べ物にならない。もともと無生物であるはずの像と、人間に流れている時間は違っているのかもしれない。

「私は、恋人と引き離され、この少女の像の中に封じ込められたのです。それ以来、あの人が助けにきてくれるのを待ちつづけています。もうすぐあの人が来るのではないか、もう来るのではないかと。しかし、未だにあの人は現れません。あの人は今、一体何処にいるのでしょう。私の恋人、運命の人」
「え、ちょっと待って、あんた封じ込められたって、一体誰に」
 こんな平和な駅前にしては、物騒な話だった。都市伝説、という奴なのだろうか。像がしゃべるなど、雰囲気としては怪談といった方が近いような気もする。
 そんなことを考えている事を知ってか知らずか、少女は淡々と続ける。

「わかりません。ただ、あの人と一緒にいたところを真っ黒い影のようなものに取り囲まれたかと思うと、私はいつの間にかこの像の中にいたのです。あの人の消息も、何もわかりません」

 真っ黒い影。心当たりがあるといえばいくらでもある。物語中の悪役が影のような形で描かれているファンタジーは、数え切れないほどにあるのだから。
 とりあえず、「魔王に連れ去られた」などという言葉が出てこなくて良かったと思う。現代日本に「魔王」はあまりにもそぐわない。「影」がちょうどぴったりだとは言わないが。

「それで、ずっと待ってるんだ…」
「あの人はまだこない…まだ来ない。けれど、いつかは助けに来てくれる。私はそのときを待っています」
 確かに辛抱強い人だと思う。
 しかし、私は疑問を覚えた。本当に待っているだけでいたのだろうか。少しは自分で行動してみようなどとは思わなかったのだろうか。
 ただひたすらに、王子様の助けを待っている囚われの姫君。自力で脱出しようなど、試みもせずに諦めて、王子様が助けてくれる事を祈っている。昔のゲームに出てくる、そういったお姫様が、私は好きになれなかった。自分から動こうともせずに、助けをもとめている姫君。
 自分なら、あんな牢屋からは簡単に脱出できるだろう。そして、自分を救うため、悪を倒すために戦っているヒーローの元へと走るのだ。それから後は、二人で一緒にラスボスを倒しにゆく。
 昔、そんな風に毒づいていた事を思い出す。
 けれど、今は、待ち続けることが出来るのは、相手を信頼しているからなのかもしれないとも思う。
 必ず、ヒーローが自分を助けに来るのだと思っているからこそ、少女は何十年もの間、助けを待っていた。疑いもせず、ただひたすらに王子様を待っていた。
 ただ、それは私には出来ない事だろう。現に私は、冴島を待ち続けられなかった。
 四時になったら、諦めて帰ってしまおうと思っていた。あの地下道が正常ならば、私は今ごろ、すでに家にいるはずだ。
 自分が疑い深い性格だということもあるかもしれないが、来ない相手を、ただ待って時間を過ごすなど、どうしても馬鹿らしいと感じてしまう。私は助けを待つ姫君になどなれそうにない。
 だから冴島は、こんな状況に身をおくことになってしまった私を、助けに来ないのだろうか。
 私が、王子様を信じてひたすらに待ち続けているような、愁傷な姫君ではないから。

「私はあの人を待ちつづける。私の恋人、運命の人。早く助けに来て。」

 像の少女は再び歌い始めた。恋人の手を待ち望む歌だ。
 緩やかなメロディに乗って、その声は一体どこまで届くのだろう。
 歌声は広場の中に響き渡っているが、それ以上遠くには聞こえそうにない。しかし、この歌はおそらく、どこかにいる恋人に向けてのSOSではなく、少女の祈りなのだ。ただただ待ちつづける少女の、ひたむきな祈り。
 ひょっとしたら、それと同時に、自分を励ますための歌なのかもしれない。自分の待っている王子様を信じつづけるために、歌っているのかもしれない。

   「助けに来て。私をここから解放して。あの人に会いたい……」

 待ちつづける少女の思いは、私を揺さぶる。しかしそれでも私は、王子様を待っている事などしないのだろう。
 何もせずに待っていることなど出来ない。会いたいのならば自分から会いに行く、そういった行動が、すでに当たり前になってしまっているのだ。
 少女の歌は、私には必要のないものだった。一瞬でも自分の思いと重なったということは否定しないが、私は待っているだけの姫ではないのだ。
 待ちぼうけの姫君などではなく、活字中毒の女子高校生なのだ。
 私はもう冴島の事など待たない。待っている資格もなければ、必要もない。

「あんたはそこで、ずっと助けを待ってるってわけね。わかったわ。でも私は自分の力で、出口にたどり着いてあげる。ついでに、冴島のことも、見つけてみせる。」

 確かに今、私はこの場所に囚われているのかもしれないが、誰かの助けを求めようとは、もうしないだろう。
 心細いと思わなくはないけれど、待っているだけの方が、余計に辛い。あいにく私は、お姫様のような、信じつづけるという強さは持っていないのだ。その代わりに、私はごく普通の女の子として、王子様を探すために走り回る事が出来る。そういう力を持っている。
 ばいばい、私はゆっくりと彼女に手を振った。私のことなど全く気にせずに歌っている彼女を残して、私は再び地下道の探索を始めようと、歩きだした。





*     *     *






 地下道を駆け下りる。幸い、先ほどの会話の間に、体力は大分回復していた。
 もう一度、北口に抜ける事ができないかどうか試してみるつもりだった。やる気が体中にみなぎっている。お姫様への反発という事もあるかもしれない。その点に関しては、彼女に感謝してみてもいい。

 しかし、実際に地下道へ入った私は、うっと一言うめいて、その場に立ち尽くす事となった。
 目の前にのびている地下道の状況は、かなり悪化していたのだ。先ほどの地下道は、とりあえず、北口へ出ることが出来ないという点以外は、いたっていつも通りだった。
 しかし今度は、全体的に、あまりにも奇妙な空気が満ちている。
 ギャラリーを見せるために光っていた照明はいつの間にか消えており、代わりに、うすぼんやりとした青い光が、地下道全体を包み込んでいた。光源がどこなのかはわからない。
 その光は決して明るいとはいえないもので、見通しは悪かった。

 そんな光に照らされた展示物たちも、不気味な輝きを放っている。
 可愛らしいはずの、手作りのテディ・ベアは今にも襲い掛かってきそうな体勢で、私の方を睨んでいる。
 写真の中、夕焼けに照らされて遊んでいた子供達は、いつの間にか紅蓮の炎に取り囲まれてうめき声をあげている。
 郷土の英雄が使ったといわれる大きな鎖鎌は、どす黒い血をつけた刃を剥き出しにしている。
 雑多な作品たちは全て、恐怖の館仕様に変更されていた。
 そして何よりも、その地下道には、出口がなかったのだ。どれだけ目を凝らしても、道の先にあるはずの階段が見えない。
 見通しが悪いとはいえ、道は異常なほど遠くまでのびており、その先は暗闇に吸い込まれるようになっていた。

 私は、ごくりとつばを飲んだ。
 確かに、お化け屋敷の類は苦手ではない。怖がる友人を背中にひきつれて、ずかずかと歩いてゆく方だ。しかし、これには圧倒される。何が出てくるかわからず、身の安全も保障されていない、極めつけに、この道に終わりがあるのかもわからないお化け屋敷など、前代未聞だ。

 私は咄嗟に後ろを振り返った。振り返る動作の途中、うすうす予感はしていたのだが、背後にはもう、私のおりてきた階段がなくなっていた。代わりに、先ほどと同じような道が、えんえんと伸びている。退路は絶たれた、ということか。
 これでは、疲れて引き返すことすら出来ない。

 しかし、このときの私は、不思議なほどに強気になっていた。
 なるほど、今度はこういう方向で私を怖がらせようっていうの。ふうん、面白いじゃないの、受けてたってあげるわよ。こんなの、お化け屋敷のようなものじゃない。せいぜい楽しんであげるから、見てなさいよ。
 誰にともなく語りかけるように、心の中で呟いた。それは強がりの言葉なのかもしれないが、ここで怖がって、立ち止まってしまうよりは遥かにましだ。
 その強がりが自分を奮い立たせていてくれる限り、私はこの道を進んでみようと思った。
 どうせもう退路もないのだ。行こう。とにかく進んでみよう。


 ただ助けを待っているだけの、お姫様でなんかいてあげるものですか。


 ぷつん、私の中で、何かの歯止めが外れた。
 切れた、という表現を使ってもいいかもしれない。
 今まで、切れる、という表現にはマイナスのイメージがあったが、私はそのイメージを訂正する事にした。今までにないほど精神が高揚しているのがわかる。心臓がとくとくと鳴っている。熱い血液が体中を駆け巡る。
 私はこんな事で負けたりはしない。
 何のために活字中毒者やってると思うの。本を読むことで、一体どれだけの冒険をこなしてきたと思うの。活字中毒のプライドにかけて、私はここを脱出してみせる。

 一度目をぎゅっとつぶって、開ける。
 目を開けたら、いつもの地下道が広がっていたらいいのに、一瞬そんな期待をした事は否定しない。けれど、私はこんなものに負けないと決めたのだ。待ちつづける少女の、諦めと期待が混在する微笑みに対抗するかのように、私は今、強気の笑みを浮かべていた。

 少しくらいホラーテイストな飾り付けが、一体なんだって言うの? 馬鹿にしないで、もっとずっと怖い描写の出てくるお話はいくらでもあげられる。両手を使ってもまだ足りないくらいだ。例えば、スプラッタものなら、血だけではなくて内臓やら脳みそまで飛び散る。そういう話を読んできた私が、この程度で怖がっていてどうする。小林遥、こんな事で泣き叫ぶほど、お前の肝っ玉は細くないはずだ。

 青白い顔をした女の肖像画の瞳が、赤くきらめいた。豆電球でも搭載しているかのように見える。そのきらめきは、彼女の真っ白い肌によく似合っていた。ガングロはもう古い、今は美白の時代だとはよく言われるが、彼女ほど色白の者は、そういないだろう。毎日、お肌の手入れに余念がないクラスメートたちに見せれば、うらやましいと声をあげることだろう。

 目をくりぬかれたアンティークの人形がいた。あちらは手足をもぎ取られた。こちらは鼻をそぎ落とされた。そちらは口を縫い付けられた、耳を引き裂かれた。それでも四人ともそっくりな顔立ちをしていた。真っ赤なドレスの作りも全く同じ。四つ子なのかもしれない。これならば一人一人の見分けもつくだろう。それが個性というものだ。

 絵の中から突き出した左手。白い指先に真っ赤なマニキュアがよく映える。握手してあげたいところだったが、そんな事をしている暇はない。

 宝石で豪華に飾り立てられた青い壺から、白蛇が舌をちろちろと出していた。蛇使いの真似は一度やって見たいと思っていたので、縦笛がないのが残念だ。ただ、もしあったとしても、私は縦笛などリコーダーくらいしか吹けない。リコーダーが吹ければ充分だろうか。

 巨大な布張りの本の周りで、ちょろちょろと黒い生物が踊っていた。生物には黒い羽と、耳と小さなしっぽが生えている。さすがに活字中毒の私も、悪魔召喚の書など手に取った事はなかったので、どのような本なのかが気になったが、そのまま無視する事にした。時間もないうえに、自分の身長よりも大きな表紙の本を読むのは体力をかなり消費するだろう。それに、中身が日本語でかかれているわけではなさそうだった。英語ならまだしも、ラテン語やアラビア語は、単語の一つすらもわからない。

 白いライオンが、狩猟服を着た人間をむさぼり食っている。手足や口元には、彼が流した血がこびりついていた。今更取り立てることもない、自然の摂理だ。

 見たこともない生物が、触手をうねうねと伸ばしている。上半身は猿にペリカンの嘴がついたようで、下半身は、強いて言うなれば蛸だった。その触手は、しゅわしゅわと音を立てる液体でぬれていた。

 黒いマントをまとった白い仮面が、にやにや笑いながら、ゆらゆらと踊っていた。リズムを取ってみると三拍子だった。ワルツか、仮面のくせになかなか優雅だ。怪人には優雅さがなければならない、と私は常々思っているので、そういった意味でこの仮面は合格点だった。

 薔薇の根にとりまかれて、やせ細り、悶えている男がいた。根はまるで棘のように、体中に突き刺さっているが、血は一滴も流れていなかった。すでにこの薔薇が、一滴残らず吸い上げてしまったのだろうか。薔薇の花は血の色のように赤い。よく見ると、それのすぐ傍には、からからになったスポンジのようにやせ細った男達が積み上げられていた。絞り尽くされた残骸といったところだろう。私は思わず、つい最近読んだ幻想文学を思い出した。

 ガラスケースの中に収められた、美少年の生首があった。まつげは長く、唇は赤く。肌は一度も外へ出たことがないのではと思われるほど白い。そして、額にかかるふわふわとした栗色の髪の毛。金持ちのおば様によるコレクションだろうかと考える。金持ちに対する偏見なのかもしれない。私と目があうと、彼はにこり、と笑いかけてきた。生首とはいえ、ここまでの美少年に微笑まれて、私は圧倒された。


 ひとつひとつの展示物が、私の想像力をくすぐった。
 怖いという気落ちはいつの間にかどこかへ吹き飛んでしまったようだった。酒を飲んだわけでも何でもないのに、完全にハイになっているらしい。
 ここまで奇妙なものを色々とそろえられると、まるでテーマパークのように見えてくる。それに、たくさんの怪物に出会ったが、今までに直接的な危害は加えられていない。そのことも私を油断させていた。
 恐怖感をあおろうとしている展示物の事よりも、これだけ歩いたにもかかわらずやはり出口が見えない、という事の方が遥かに大きな問題だった。
 目の前の道は、途切れることなくどこまでも続いている。
 そろそろお腹もすいてきた。よく考えてみれば、正午前に昼飯を食べて以来、何もものを口にしていないのだ。一時の待ち合わせのためには仕方がないといえ、私は少し後悔した。私の疲れが絶頂に達して動けなくなるのと、展示物のネタが尽きてしまうのとどちらが先だろうか、などと考えて空腹を紛らわせる。
 一刻も早くここを出よう、そう考えて、私は歩みを速めた。展示物を観察している場合ではない。



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