枕に顔をうずめて、くすくすと笑っていると、妹の瞳子が部屋に入ってくるなり言った。

「ハル姉ちゃん、しまりのない顔して、デートの約束でもしたの?」
「!?」
 私は驚いて瞳子を見上げた。
 デート。そうか、デートといえばデートになるのかもしれない。
 確かに冴島数彦は私とは異性で、明日は二人きりのはずだから。
 けれども私はそれまで、そんな事は全く思いもしなかったので、驚かされた。そうか、冴島数彦と小林遥は明日デートする。
 なんだかその言葉に、妙な違和感がある。

「で、で、相手は誰なの? クラスの人じゃなくて?」
「何でそこまで特定できるの!」
「ま、ちょっとした観察と推理の結果ってやつですよ、遥さん?」

 瞳子は少しばかり自慢げに言うと、ちっちっちっと右手の人差し指を振ってみせた。こういう事を普通に出来てしまう瞳子を見ていると、血の繋がりというのは考えているよりもずっと濃いものなのだなと感じる。

「簡単な事じゃない、ハル姉ちゃんは電話で、誰かと約束をしていた。」
「ちょっと待って瞳子、ひょっとして盗み聞きしてたの?」

 私は瞳子の話をさえぎった。

「それじゃあ推理も何も…」
「いいじゃない、情報収集も探偵の仕事の一環よ!」

 断言する瞳子に、私は何も言えなくなる。
 確かに少女小説しか読まなかった瞳子に、一から推理小説の世界を教え込んだのは私なのだけれど。

「ハル姉ちゃん、今、そりゃあもう嬉しそうな表情してたでしょう。女友達との約束程度でそこまでとろけた顔はしない、ということは相手は男の子なんだから、デートの約束だとしか思えないわよね。
 そして、ハル姉ちゃんは電話のとき、結構気軽そうに話していた。部活にも委員会にも入っていないハル姉ちゃんが気安く話せる相手といえば、クラスメートの子なんじゃないかな?
 というわけで証明終わり、QEDってやつよ。」

 瞳子はQEDまで持ち出してきた。
 さすが私の妹、なかなかわかっているじゃないか。
 けれど、彼女の推理には致命的な欠陥があった。私は男の子とデートの約束をしたとしとても、今ほどとろけきった表情はしないだろう。私がこんな顔をしているのは、ひとえに『三角館の殺人』のため。そう考えるとまた、顔がにやけてくる。

「あー、やっぱりデートなんだ。いいなー、ハル姉ちゃんは。瞳子も彼氏がほしいなあ。
 出来れば天才的な推理力のミステリー研究会会長。個人的には関西弁の理系眼鏡お兄さんだったりすると完璧なんだけどなあ。」

 瞳子は中学三年生である。
 おそらく、恋というものに一番憧れる年頃なのだろう。彼女は何でも恋愛沙汰に結び付けてくる。この癖は少し困りものだ。
 ちょっと連絡網が回ってくるだけで、「男の子から電話だよ」などと言ってみたり、友人に手紙を書いていると、「何? ラブレター書いてるの?」なんて聞いてくる。
 そんな時私は、曖昧に笑って否定はしないでおくのだが。
 それにしても、瞳子が理想のタイプに、天才的な推理力、などを挙げてしまうあたり、私の教育の賜物といったところだろうか。

「ハル姉ちゃん、ちゃんと彼のハートを捕まえておけるように頑張るんだよ。瞳子も頑張るから。」

 何を頑張るのかはよくわからなかったが、一応私は頷いておいた。
 頑張るといっても私に出来る事といえば、とりあえず冴島の話においていかれることがないように、色々な本を呼んで知識を身に付けておくくらいしかないだろう。しかしそれでは、普段している事とそう変わらない。
 私は少し苦笑しながら、瞳子に忠告した。

「明日は早めに起きるから、夜はそんなにうるさくしないでね。」
「わかったわかった。ハル姉ちゃんのデートが成功するためだもんね。」

 ウインクつきで返されてしまって、私は本当に苦笑いするしかなかった。


 その夜は、なかなか寝付けなかった。『三角館の殺人』のことを考えていたのと、それから瞳子に言われた「デート」という言葉が気になってだ。

 私は冴島のことを一体どう思っているのだろう。
 こんな、小学生の頃にしか読んでいない少女小説のような自問自答をするはめになるとは思わなかったが、たまにはいいだろう。ミステリ漬けでSF的でファンタジーな私の頭にはいい運動だろう。
 私は冴島のことをどう思っているのか。
 言ってしまえばどうとも思っていなかったのだが、『三角館の殺人』を紹介したらわざわざ読んでくれた、というだけで、読書家のいい奴だとは思う。読書家に悪人はいない、というのが私の持論だ。
 そもそも冴島というのは、雑学が豊富で、なかなか面白い人間だ。冴島数彦の印象といえば、そんなところだろう。
 しかし、冴島数彦には、おそらくデートなどというつもりはない。
 もちろんそういった言葉は知っているのだろうけれど、冴島がそんな風に考えて、女の子を誘うなどどうにも想像できなかった。
 確かに私自身誘われはしたものの、それはデートなどとは別のもののような感じがした。具体的にそれが何なのかと言われると困ってしまうが。

 困ってしまう前に考えてみよう、とは思った。
 逢引ではよけいに生々しい。会合と呼ぶには人数が足りない。遊びというとなんだか軽薄な感じがする。映画鑑賞教室はおかしい。
 いろいろ考えてみたが、自分の語威力ではしっくりくるものが見つかりそうになかった。冴島に会ったら聞いてみようかと思った。小説家志望なのだから、こういう時に使う言葉を知っているはずだ。





*     *     *






 冴島数彦は、あまりにも遅かった。腕時計の針も既に三時を回った。遅い、こんな事があっていいのだろうか。
 冴島に騙されたのだろうか、ちらりと考えた。
 男の子はそういう遊びをする事がある。中学生のとき、私も嘘の告白電話を受けた事がある。その時はクラスメートの女子全員にかかってきたので、すぐに嘘はばれてしまったが。
 けれど、冴島がそんな嘘をつくとは思えなかった。嘘をつくにしても、もう少しスマートな嘘をつくだろう。こんな使い古されたような形は、むしろ嫌うはずだ。もしかしたら、私がそう考える事まで見越しての行動なのかもしれないが。
 壁の後ろにでも隠れて私の方を窺っている冴島の姿を想像すると、普段の行動とのギャップになかなか笑えた。
 けれど、騙されたのならばまだいい。
 もしも冴島が、H駅に来る途中で事故にでも遭って、ここに来られないのだとしたら。可能性としては限りなくゼロに近いが、決してゼロではないのだ。それを言ってしまったら、今突然巨大な隕石が落下してくるだとか、動物園から逃げ出したライオンが襲い掛かってくるなどの可能性もゼロではないのだけれど。
 まあ、交通事故の可能性はそういう少し非現実的なものよりずっと高い。
 ありえないだろうとは思っても、一度頭に浮かんでしまうと、完全に否定するのは難しい。
 よりにもよって目の前にはニュースの流れる電光掲示板。事故、誘拐、火事、通り魔殺人、最悪の想像を組み立てるための材料は、いくらでも見つかる。
 今、H駅に混乱は起こっていないようなので、少なくとも電車が止まっているという場合は否定できるが。

 一刻も早く冴島に連絡を取りたいと思った。
 こんな時、お互いに携帯電話を持っていないことが悔やまれる。私は基本料金を払えないという理由で携帯を持たないのだが、冴島はどうやら、携帯電話など持たない主義らしい。
 いつでもどこでも連絡がつけられないと不安な相手なら、わざわざ友達だと思わなくてもいいと言っていた。
 初めてその主張を聞いた時にはなかなか面白いと思ったが、今となっては恨めしいばかりだ。私も人のことは言えないのだが。
 せめてどちらかが携帯を持っていれば、連絡をつけることが可能なのかもしれなかったのに、お互いに持っていないのではどうする事も出来ない。

 もう二時間十五分の遅刻だ。一時前から待っていた時間を考えれば、二時間二十八分も待っていることになる。二時間半も待っていたなど、私には最長記録ではないだろうか。もともと私は時間に関して割と短気な方なのだ。
 苛々と、先ほどまで読んでいた文庫本のページをめくってみる。
 あまりにも暇だったので、さっきもう一度読み返してみることにしたのだ。そして、三時になる前に読み終えてしまった。さすがに三度目を読む気にはなれない。
 こういったタイプの、基本的に一話完結でシリーズ化されているライトファンタジー小説は、一度読んでしまったらそれで終わりというものが多い。
 推理小説のように、複雑に張り巡らされた伏線をたどっていくというのもやりにくいし、幻想小説ほど、こちらの想像力を刺激する事もない。純文学を読んだ後のようにひとつのテーマについて悶々と悩む事もあまりなければ、SFのように高度な科学的解説を躍起になって理解しようとする事もない。
 もっとも、豊富なキャラクター、それから事件のちょっとした謎解き、読み終えた後の爽快さなどを手軽に味わえるのが、こういった小説の強みだとは思うけれど、やはり一日に三度も読み返すのはよっぽど気に入った小説でもない限り無理だ。たとえどんなジャンルの小説であっても。
 私はいくつか、心当たりのタイトルを、頭の中にならべてみた。例えば『三角館の殺人』などは、一日に何度読み返しても飽きる事はないだろう。

 文庫本の表紙の少年が、大きな口をあけて笑っている。その何も考えていないかのような笑顔を指でつついてみた。こんな事してみてもどうにもならない。苛々が募ってゆくばかりなのだとは、わかっている。

 冴島数彦はまだ来ない。


 もしかしたら、と私は思った。もしかしたら、待ち合わせの場所や時刻を勘違いしているのかもしれない。
 私は待ち合わせの時刻を午後一時だと思っていたが、本当は午後七時だったのを聞き違ったという可能性もある。もしくは午前一時か。けれど、そんな時間に待ち合わせをするとも思えない。やはり午後一時が妥当だろう。
 それに、映画館の開館時間という問題もある。やはり待ち合わせの時刻を間違えたということは考えにくい。
 それならば、待ち合わせの場所だろうか。
 H駅と同じ名前の駅は、とりあえず私の知っている限りでは他にない。私の耳がおかしいのでなければ、待ち合わせ場所はH駅の北口でいいはずだ。H駅北口、像の前。
 ああ、ひょっとすると、冴島は南口の方にいるのかもしれない。その可能性は否定できない。
 それに、南口にいるのなら、地下道を通るか踏み切りを渡るかして、向こう側へ行けばいいだけの話だ。可能性があるのなら、行ってみて損はないだろう。
 冴島が南口でずっと待っていたのだとすると、今までの二時間半はなんだったのだろうかという気分になるかもしれないが。


 思い立ったら即行動、そんな自分の信念にのっとって、私は走り始めた。
 ここからならば、地下道を通ったほうが、早く南口へ抜けられる。
 階段を駆け下りる。カンカンカンと響く靴音が耳に心地よい。
 地下道の壁には地域のみなさまが描いた絵や、写真、置物が飾ってあり、小さなギャラリーのようになっている。
 私は普段、そのギャラリーを見るのが好きだったのだが、今は一つ一つの作品を見ていることなどできない。万が一、冴島が南口で待ちぼうけしていた時のことを考えると、できるだけ早く向こう側へ行かなくてはならないと思う。
 走る私の視界の片隅に、青や赤や緑の展示物がちらちらと写っている。
 人はまばらだった。全速力で走ったとしてもぶつからずにすむだろう。しかし、何事か、という奇異の視線にさらされることは避けられそうになかった。おそらく、遅刻しそうになって慌てているように見えることだろう。
 実際はどちらも遅刻したわけではなく、単にすれ違っていただけなのだが。

 階段を一段飛ばしで上がり、やがて視界が開ける。
 夏の日差しが目に飛び込んでくる。眩しい。
 南口は、北口とはイメージが違い、のどかな広場が目の前にある。
 広場は緑の生い茂っている植え込みで囲われている。
 ここにも像が一体あるようだった。こちらは夏らしいワンピースを着た少女の像だった。誰かを待っているかのように、手を後ろに組んで首を伸ばしている。
 彼女は台などの上に乗らず、直接アスファルトの上に立っているので、一瞬、本物の人間が誰かをを待っているように見えた。
 しかし、その傍に冴島数彦らしき姿は見当たらなかった。
 普段制服姿しか見ていないので、私服になると見分けがつかないのかもしれないとは思ったが、H駅の南口には高校生の男の子らしき人影もない。ベンチに座っている女の子の集団がひとつと、待ち合わせをしているらしい小学生、犬を連れたおじいさんが一人いるだけだった。
 ほのぼのとした、何か物語の作れそうな光景ではあったが、この場合そんなストーリー性は、あまり必要ない。
 私はため息をつくと、地下道へと引き返すことにした。

 私は落胆していた。
 ひょっとしたら、という期待は、思っていたよりも大きかったらしい。腕時計の針は三時五十分をさしていた。この時計で四時まで待ってこなかったら、もう帰ってしまおうか、と考えた。
 映画の最終は五時ごろだろう。待ち時間を考えると、四時までに冴島に会えなければ、諦めたほうがよさそうだった。


 そんな沈んだ思いで地下道へ入った途端、奇妙な感覚がした。

 ぐりん、と何もかもがひっくり返ったような感覚。
 思わず、H駅から車で十分のところにある遊園地のアトラクションを思い出した。箱に入って、巨大なロボットに振り回されるというの想定したアトラクション。大きく振り回される。ぐりん、ぐりん。

 貧血を起こしたのかもしれないと思った。壁に寄りかかっていたとはいえ、三時間以上たちつづけていたのだ。貧血を起こしてもおかしくはない。
 しかし、貧血の時のすうっと意識が遠くなる感覚とは大分違っていた。自分の状態には関係なく、むしろ回りの風景が反転してゆくような感じだった。
 もしも私が、ハンマー投げのハンマーになったら、こんな感じなのかもしれない。回転に耐え切れず、私は目をぎゅっとつぶった。

 そのうちに回転は止まったが、まだ眩暈がする。
 暗闇の中で自分がぐるぐると回っている。
 今、目を開けたら、風景がぐるぐると回って見えるだろう。気持ちが悪い。私はそのまま、眩暈の感覚がひくのを待つ。

 そして、私は目を開けて、景気付けに一度自分のほおを両手で叩くと、北口へと向かって走り出した。
 さっきと全く同じように、靴音を響かせる。
 今度は誰もいない階段を駆け上り、そして、視界が開ける。
 太陽の光が私の目を射る。先ほど見たのと同じ夏の太陽の日差し。

「え…?」

 私は思わず声をあげた。
 目の前には、少女の像。向こう側にはベンチ。広場を取り囲む植え込み。
 そこは、H駅の南口だった。ただし今度は、一人も人間がいない。少女の像がほんの少し寂しそうに笑っていた。

 私はあっけにとられてしまった。
 北口へと向かったはずなのに、ここはどう見ても、H駅の南口だった。北口のような大きな建物はひとつも見えない。少年の像も見当たらない。おかしい。
 私は確かに、北口へと向かったはずなのに。 首を大きく横に振る。頭が少しくらりとしたが、それは首を振ったせいだけでもあるまい。
 私は何も考えずに、再び地下道へと入る。
 靴をならして階段を下り、上り、そしてまた出てきた先は、駅の南口だった。
 さっきと同じだ。

「うっそお……」

 へなへなと座り込んだ私の唇からもれたのは、世にも情けない声だった。





*     *     *






 なんとしても北口に出ようとした私は、数十回の挑戦のあと、疲れ果て、南口のベンチに腰掛けていた。
 ゆっくりと歩いてみる。全速力で走ってみる。横向きに歩いてみる。後ろ向きに歩いてみる。壁に手をついて歩いてみる。抜け道を探してみる。絵の裏にスイッチが隠されていないかどうか探ってみる。呪文を唱えてみる。
 ここぞとばかりに、ファンタジー小説やSF、それにゲームから応用した知識を総動員したが、北口に出ることは出来なかった。

 しかし、一体何故こんな現象が起こっているのだろうか。
 私が地下道を通っている間に、地下道自体が回転しているのだろうか。そういった仕掛けのある館が出てくる推理小説を、何作か読んだ。けれど、ごく普通の駅に、そんな趣向を凝らす必要があるとは思えない。金持ちの館ならば、道楽でそんな大層な仕掛けを作るのもわからなくはない。が、ここは本当にありきたりの駅だ。設計者もとくに有名な人間ではなかったはずだ。わざわざそんな奇妙な仕掛けをつくったなどという話はないだろう。
 何かの呪いというのも捨てきれない。知らないうちに歩いている向きをひっくり返してしまう妖怪なんか、いかにもいそうだ。それとも、駅を造る時につぶされてしまった田んぼに住んでいた蛙の呪い。カエルというだけあって、どうやっても元いた所に返ってしまう呪い。やめよう、この類の事を言い出すときりがない。
 冴島数彦の企みなのかもしれない。私を驚かせるために、こんな不思議な状況を作り出した。けれど、それではまるで冴島が魔法使いか何かのようだ。
 クラスメイトは魔法使い。設定としては面白そうだが、信じる気にはなれない。ならばせめて、催眠術はどうだろう。

 ……小林遥、君は明日一日、俺の姿が見えなくなります…そして、地下道を使って南口から北口へ行く事も出来なくなります…そして、俺が手を叩いたら、この暗示の事は全て忘れます……

 推理小説ならば催眠術は反則になるが、これは別に小説ではない。けれど、催眠術をかけてまで、私をからかう意味がどこにあるのかといわれたら、何も答えられない。
 腰掛けているベンチを叩いてみる。手のひらにはきちんと、固い木の感触が伝わってくる。これが夢であるとも思えない。
 それは確かな現実感のある光景なのに、そこで起こることは現実離れしていた。

 私は地下道を通って北口へ行く事を、もうすっかり諦めていた。これを何回繰り返したところで同じだろう。
 まさか、「おめでとう、この地下道への百回目の挑戦です。お祝いに北口へ続く扉を開けてあげましょう」などということもあるまい。もしあったとしても、百回も挑戦するのは無理だろう。私にそこまでの根性はない。
 地下道が通れないのならば、素直に踏切を渡って北口へと向かうしかない。

 呼吸を整えて、広場を出るために歩き出す。
 しかし、私は結局、その広場から出ることが出来なかった。広場の外へ向かって歩き出すと、始めのうちはいいのだが、いつの間にか地下道のほうへと向かって歩いているのだ。理由など聞かれても困る。私はあくまでも踏み切りへ行こうと思いながら歩いているのだから。
 またか、と私は正直げんなりした。気が付くと逆の方向へ歩いている、地下道の時と同じパターンだ。

「あまり同じようなトリックばかり使っていると飽きられてしまうよ、魔法使いさん。」

 独り言は聞いている側にとって相当不気味であることくらい自覚済みだ。
 しかし今この場所に、私の独り言が聞こえる人間は誰もいない。
 それに、そんなくだらない冗談を言って、どうにか気を紛らわせていないと、おかしくなってしまいそうだとも思った。いや、すでにどこかおかしくなっているのかもしれないが。歩行のバランスが悪いとしたら、三半規管か何かの異常になるのだろうか。



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