*ウェディング・ベルには遠すぎる*



「…これが、タイムマシン?」
「うん、そうだよ、頑張って作ったんだ。」

 それは、一言で言うなれば、「ミルクの代わりにコーヒーにつけて作ったフレンチトースト」のような形をしていた。本当は一言で言えるような外見じゃなかったので、サトルの言葉を借りるしかない。
 サトルが私にプロポーズして、さらにタイムマシン製作宣言をしてしまったあの日から、二年が過ぎようとしていた。
 あと一週間ほどで、サトルは誕生日を迎え…私たちは、現代で結婚できるはずだったのだ。

「さあ、じゃあ、さっそく平安時代にでも鎌倉時代にでもレッツゴー!」
「ねえ、サトル、あとたったの一週間でサトルは十八歳になるんだよ?そうしたら、結婚だってなんだって自由にできるんだよ。」

 大体、今から親の許可その他を取って、平気で一週間なんて過ぎてしまうはずなのだが。下手すると、式場予約、引っ越しなどなどで一年以上かかるかもしれないのに。

「僕は一刻も早く、君と結婚したい。」

 そりゃあ、過去で結婚するんだから、時間軸でみればそちらの方が早いに決まっている。だけど、そんな風に言われてしまうと、私だって女の子だから、断れない。
 ……だからって、わざわざタイムスリップなんてする必要は無いって、断言は出来るけど。

「さあゆこう、未知の世界へ!」

 サトルが私の肩を抱く。彼は自身たっぷりだけど私はやっぱり少し…いや、かなり、先行き不安だ。




 ここは、そのタイムマシン内。
 目の前には招き猫。そのとなりに赤いスライムと、洗面器。
 なんだか変なものがたくさんおいてあるだけに見えるのだけど、これが本当にタイムマシン、なんだろうか。

「あ、あらかじめ注意しておくけど、時間移動の時には、変な幻覚が見えたりするかもしれないから、気をつけてね。」
「幻覚って…大体この機械、どんな原理で動くのよ。」
「えーっと、移動の時にはね、ポヨヨン回路を使うの。それで、キラキラ菌がコースチットテリカする事でね…」
「ごめん、何が何だかわからない。」
「あ、そっか、ほとんど僕の造った言葉だから…既存の言葉じゃ、この原理を説明し切れなかったんだ。わかりにくかったら、ごめんね。」

 あきらめよう。サトルを説得しようなんて、はっきり言って、無駄だ。

「じゃあ、動かすからね、そこのCDラジカセにつかまって。」
「……これに?」

 だめだ、細かい事は気にしてはいけない。こんな調子では、彼の妻になる資格が無いぞ。
 私は無理やりにそう思って、自分を奮い立たせた。

「発進!」

 サトルの手が、招き猫の腕を下げる。どうやら、あれが発進レバー、らしい。
 そのとたん、エレベーターの上昇時のような感覚が私を襲い…その直後、さっきの赤いスライムが、大きな口をあけて、私に迫ってきた。

「うきゃあああ!?」

 これがサトルの言っていた「幻覚」だろうか。
 それにしても、気持ちが悪い、うねうね動いて、私の身体を食べようとしてる…こんなの、幻覚でもいやだっ!!そう思った瞬間、私の意識は見事に現実逃避をして……

 完全に、ブラックアウト、した。




 目の前に、サトルのくりくりとした瞳。それが、嬉しそうな色をたたえて、やがて微笑へと変わってゆく。

「ああ、よかった、気が付いた。」
「サ、トル…ここは?」
「ちゃんと、過去だよ。ほら。」

 そう言って、サトルは私を起こした。そして私は、目の前に、信じられないものを見た。
 確かあれは、…トリケラトプス。

「ここは…ハリウッド?ディズニー?」
「だから過去だってばあ。」

 なんで、なんだって平安だか鎌倉だか室町だか知らないけど、そこに恐竜がいるの?

「ちゃんと過去に来れたでしょ?さあ、結婚式を挙げよう!」
「いや…あの…なんで恐竜がいるの?」
「ここはあの頃からおおよそ六千五百万年前だよ。」
「何で…鎌倉時代に行くんじゃなかったの?平安は?どうなってるのよ!?」
「うん、だから中世。鎌倉とかって確か中世って言うんじゃなかったっけ。」

 まさかサトル、中世と中生代を勘違いしているんだろうか?そんな恐ろしい事…サトルなら、やりかねない。

「とりあえず、サトル…ここは鎌倉時代でも平安時代でもないわ。そのへんは、ここよりもずっと未来にあるのよ。だから、さっさと現代に帰って、そこで作戦を立て直しましょう。」

 私は必死で言った。こんな時代に、いつまでもいるわけにはいかない。

「あ、できないよ、それ。」
「どうして!?」
「だって、このタイムマシン、未来にはいけないように作ったんだもん。その方が製作時間がかからなかったから。」

 と、いうことは、この時代から、もう離れられないという事なのだろうか。

「この時代が気に入らないんなら、もう少し過去に行こうよ。なんなら、マイコプラズマとかが出てきたばっかりの時代にでも…」
「そんな時代には酸素が無いでしょ!」
「そこはまあ、なんとか愛の力で呼吸くらいなら!」
「できるかああっ!?」




 いまさらじたばたしたって仕方が無い。
 サトルにはどうにかして未来へ帰る方法を見つけてもらうことにして、とにもかくにも、こんなわけで、私たちの新婚生活は、始まってしまったのだった。



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