清水義範『おもしろくても理科』 1998,講談社文庫



 清水義範さんっていうのは、いろいろなものをパロディしたり、妙な仮定をもちだして笑える小説を描いちゃう作風「パスティーシュ」で有名な作家さん。といってもわかりにくいでしょうから、いくつか紹介してみましょう。

 まず、代表作ともいっていい『蕎麦ときしめん』(講談社文庫)。これは名古屋に行ってカルチャーショックを受けた東京人が、名古屋人の奇妙な生態を書く論文という形式をとって書かれた小説。こんなものを書いてしまった清水義範(名古屋出身)は、故郷でさんざん裏切り者扱いされたといういわく付き。
 受験生のとき思わず手にとってしまった『国語入試問題必勝法』(講談社文庫)は、別に問題集じゃありません。国語だけが苦手な受験生に、家庭教師が「必勝法」を教えてくれるという小説なのですが、「内容を何文字でまとめよ」問題など、入試問題の穴を見事に突いた傑作です。
 個人的なお薦めとして『戦時下動物活用法』(文春文庫)。これは、若い女の子のダイエットをテーマにした「空腹姫」や、個性豊かな電車たちが間の抜けた会話をする「ダイヤの花見」、××さえ食べていれば健康だ!と信じる人々のおかしさを描いた「栄養伝説」など、かなり笑わせてもらった一冊です。何通りもの文体で書いた「前文」などが読める『騙し絵日本国憲法』(集英社文庫)もお薦め。
 また、歴史ものもいろいろ書いていて、中でも好きなのが『金鯱の夢』(集英社文庫)。これは、豊臣秀吉に有能な嫡子がいたら、江戸時代はどうなっていただろうか、という仮定に基づいて書かれた話。豊臣幕府が開かれて、思いもかけない人が思いもかけない事になってしまいます。とくに東洲斎写楽は……。
 他にも『開国ニッポン』(集英社文庫)は、日本が開国政策をとっていたら?という話。江戸のファッションモードはいまやフランス!綱吉は犬のパピヨンに夢中!だったり。明治維新なんかもまったく違う形で起こります。(坂本竜馬のファンにはお薦めかもしれない)  これらの歴史ものの中で、結構重要な役割を果たしているのが平賀源内。清水さんはどうやら平賀源内が非常に好きらしく、『源内万華鏡』(講談社文庫)という、源内を主人公にした長編小説も書いています。薬草の学者だったり、戯作者だったり、博覧会を開いてしまったり、鉱山ほりあてようとしたり、発明家だったり、源内さんの行動力に惚れ惚れします。平賀源内の超人ぶりを見てみたい人、ぜひ。

 こんな愉快な小説をたくさん書いている清水さんですが、教育エッセイ?でも有名なのです。
『おもしろくても理科』(講談社)をはじめとするお勉強エッセイシリーズは、できるだけ楽しくその教科を語る、というコンセプトに基づいて書かれたエッセイ。西原理恵子さんが、イラストでやさぐれぎみにツッコミを入れてくれるあたりが愉快です。理科が好きな人間にとっては、清水さんの言葉にふむふむとうなずいているのですが、理科がキライな人はサイバラさんのツッコミに共感するのでしょう(「わかんね。」)
 このシリーズには『おもしろくても理科』『もっとおもしろくても理科』『どうころんでも社会科』『もっとどうころんでも社会科』『いやでも楽しめる算数』『はじめてわかる国語』(いずれも講談社)があります。算数は、ひょっとすると数学より難しいのかもしれないと思ってしまいました……(xもyも使わずに、鶴亀算なんてどうやってやるんだ!?)

 また、国語科の方(いるのかな?)には、是非とも『清水義範の作文教室』(ハヤカワ文庫)をお薦めしたいです。清水さんが小学生の作文を添削指導したその報告なのですが。作文はありのまま書かなきゃ面白くない、優等生的な作文を求めているわけじゃない。そんな風に指導し続け、子供たちが面白い作文を書こうと暴走してゆくのを暖かい目で見守り続けています。
 そして基本的に良いところをほめる。名づけて「ほめほめ作文指導」(そのまんまだ)ほめられていると、作文が嫌いだった子も、だんだん好きになっていったりします。普通、先生だったらほめてくれないようなところをほめてくれると、なおさら。
 非常にユーモラスな表現を次々考え付く子がいたり、その子に刺激されてみんながどれだけ面白い作文を書けるか頑張り始めたり、物語を書き始める子がいたり。一年間、同じ子供たちの作文をみていると、本当に成長するものだなあと思えます。……国語科じゃなくても、小学校の先生やるんだったら、目を通してみて欲しいかも。特に「作文は、道徳指導とは違う」というくだりは納得してしまいました。作文の評価は、その時の気持ちなどをいかに表現できたかでするんであって、その時の「気持ち」それ自体を―たとえば友達に対してちょっと意地悪なことをしてしまったときとか―評価するものではない。そのとおりだと思います。(作文の中で「悪いコト」の兆候がみられたら、注意したくなる気持ちはわからなくもないですが)
 作文関連では『作文ダイキライ』(学研M文庫)もあります。こっちは、学研の「6年の学習」で連載された、小学生の作文を集めて指導するコーナーがまとまったもの。こちらでもやっぱり、清水さんの作文への考え方が見られます。


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