************** はりねずみ **************



心臓に、針が一本刺さった。
目には見えないくらいの細い針
笑顔を作るたびに細い針が
心臓の表面を埋めていった
心の隙間はそれで埋まった
痛みはない
本当に細い針なのだから



だけど細い針にもやはり
体積というものはあったようで
いつのまにか心臓には
もう針の刺さる場所がなくなっていた
心臓の桃色は
隙間なく刺さる針でもう見えない



それはまるで完成されたひとつのオブジェ
触る事もできない芸術品
この作品は遠くからご覧になることをおすすめします
作者自らにすら触れられない芸術品に
人間たちは価値を与えた
硝子ケースのなかにはりねずみを押し込めた



外に出たいと嘆く声は
かすかなすすり泣きは
全て分厚い硝子によって遮断される
自分自身のうめき声だけが
ケースの中に反響していた
自分自身の叫び声だけを
はりねずみは黙って聞いていた



誰かここから救い出してくれる人を待ち
しかしこの壁を破る事など到底不可能



細い針で覆われた心臓
その身を針で守りつつも
孤独に耐えられず慟哭している
しかしその鼓動すらも
分厚い硝子は封じ込め
外では何も聞こえはしない



それはまるでひとつの動かぬ彫刻
硝子に阻まれたはりねずみの慟哭が
人間達に見えるはずもない



しかしはりねずみは知っているのか
おまえを見ている人間達が
おまえと同じようなこころをもっているということを



硝子ケースのかわりに
分厚い肉の塊にとりかこまれ
自身の針で誰かを傷つけてしまわぬようにと
隠れているおまえの仲間たちのことを知っているのか



細く鋭い針の迷宮で
身動きのとれなくなったものたちのことを
おまえは知っているのか



針の中でうごめく心臓の嘆きは
誰にも伝わる事がない
分厚い硝子に阻まれて
ただおのれの叫び声だけが反響している
何も見えず
何も知らず
おのれの身が慟哭するのを
ただ聞いている


****************************************







BACK



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送