*言葉の村の探偵* あるところで、とてもおかしなじけんがおこりました。 これは、そのじけんと、それをかいけつしためいたんていのおはなしです。 このむらには、『ひがいしゃさん』というなまえの、とてもわるいひとがいました。 そのひとは、たにんのおかねをだましとったり、いじわるなことをしていたので、むらのきらわれものでした。 ところが、あるひ、『ひがいしゃさん』がじぶんのへやで、あたまをなぐられてしんでいました。 なにでなぐられたのかは、『けいじさん』というひとがしらべたのですが、わかりませんでした。 それよりも、おかしなことがありました。 へやには、かぎがかかっていて、だれもはいることができなかったはずなのです。 こういうのを、すこしむずかしいことばで、『みっしつさつじん』といいます。 さて、むらのひとたちはこわがりました。 だって、にんげんのはいれないばしょにはいれるのは、ゆうれいだとか、まものだとかにきまっていますもんね。 そんなとき、ひとりのおとこのひとが、むらにやってきました。 そのひとは、じぶんのことを「めいたんてい」といいました。 めいたんていは、『ひがいしゃさん』のへやをすこししらべると、こういいました。 「はやく、したいをもやしてしまいなさい。 そのひとがいきていても、おまえたちにいいことなどないのだから。 だいじょうぶ、これはにんげんのやったことだ。ゆうれいだとかをおそれるひつようはない。」 そして、めいたんていは、じぶんのかんがえをはなしだしました。 それは、むらびとたちがおもいもつかないようなものでした。 たしかに、そのやりかたをつかえば、にんげんでも『みっしつさつじん』ができます。 こういうのを、『みっしつとりっく』といいます。 でも、ざんねんながら、その『みっしつとりっく』のおはなしは、むずかしすぎてここではかけません。 そんなことをかける、むずかしいコトバはここにはないのです。 げんに、むらびとたちのさんにんにふたりは、めいたんていのはなしがわからなかったそうです。 のこりのひとりも、すべてわかったわけではありません。 さて、むらびとたちは、たんていのいうとおりに、『ひがいしゃさん』のしたいをむらのすみのほうにうめました。 そのあと、かれらはたんていのまわりをかこんで、うたいはじめました。おまつりです。 やっとわるい『ひがいしゃさん』がいなくなったのですから。 たんていは、てあつくもてなされました。おまつりは、よふけまでつづきました。 しかし、つぎのひ、むらびとたちは、たんていがいなくなっているのをみつけました。 そして、めいたんていのかつやくは、このむらのでんせつとなったのです。 ところが、じつは、これはだれもしらないことですが、たんていはいなくなるまえに、あるひとをたずねていたのです。 そのひとは、なにをかくそう『はんにんさん』でした。 「はんにんは、あなたですね。 あなたにしかこれはできなかった。この、どこかおかしなむらでは、なまえがすべてをきめるんだ。 ひがいしゃは『ひがいしゃさん』、そしてぼくはめいたんていだ。 だから、はんにんになれたのは、『はんにんさん』あなただけなんです。」 「証拠は、証拠はあるんですか。わたしが犯人だという証拠は?」 「そのコトバが証拠ですよ。 そんな難しい台詞は、ほかの村人達にはしゃべれないんです。彼らはそういうコトバを知らないから。 こんな高度な会話が出来るのは、このお話の中では、探偵か、被害者か、それか犯人しかいない。ふつう、証拠なんてコトバ、いきなりは出てきませんよ。 台詞があるのは、重要な役だけ、それがここの掟でしょう。」 「そんな…」 『はんにんさん』はうなだれました。 そこにやさしく、たんていがてをかけます。 「あんしんしてください。あなたはなんにもわるくありません。ひがいしゃさんはわるいひとでした。むらびとたちは、あなたのしたことをよろこんでいるじゃあありませんか。」 「たんてい、さん…。」 「それはぼくのほんみょうじゃありません。ぼくのなまえは****ですよ。」 それは、だれにもききとることのできなかったコトバでした。 たんていは、****は、そしてそこからたちさったのです。 『はんにんさん』は、つぶやきました。 「あなたは、本物の名探偵だったわけですね。役割の決められたこの村で、部外者のあなたが事件を解決してくれた。 あなたの本名は『めいたんていさん』じゃない。 『めいたんていさん』は、そういう名前の人間は、私達の村にもいるんだ。 その人が解決する事件だったはずなのに、あなたは、こんなに見事なラストを与えてくれた。 あなたは、紛れもなく、名探偵だったのよ。 …あんな形じゃなくて、あなたの本名を知りたかったわ。」 めいたんていのほんみょうは、だれにも、りかいできないしゅるいのものでした。 それは、『サクシャ』というコトバでした。 そして、じけんはおわりました。 『はんにんさん』がはんにんだったことは、だれにもしられませんでした。 それからは、むらはとてもへいわになりました。 めでたしめでたし。 え?まだぎもんがあるって? だれもしらないことをしっているわたしはだれなのかって? さあ、だれでしょう、わたしにもわかりません。 それじゃあ、つぎはこのなぞを、めいたんていにといてもらうことにしましょうかね。 BACK |
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