*彼のカタガキ*




 私の恋人、とでも言うべきカズヒラ・ショーゴ君には、たくさんの肩書きがある。


 都立T高校2年G組出席番号9番。
 HR委員長。文化祭会計委員。
 合唱部パートリーダー(バス)。天文部会計。なぎなた部員(ヒラ)。演劇部音響係(幽霊)。
 地域のバスケットボールチームの副マネージャー。
 漫画家の母親のメシスタント。
 英検準2級。理科検定3級。暴発流華道の師範免状所持。



 そんな彼にこれまで与えられた称号を、思いつくままにならべてみよう。

 クラスの手綱を握る者。
 T高の吟遊詩人。
 市内早食い大会INどすこい祭りディフェンディング・チャンピオン。
 虚数方程式のマジシャン。
 三重跳び連続一万とんで八十八回の男。
 裏のミスター番長。
 魅惑のプラクティカル・ジョーカー。
 高校生マッドサイエンティスト。
 ネットオカマ界の貴公子。



 この時点ですでに凄い人ではあるのだが、彼の深遠なる人格を語るには、まだまだ足りない。

 例えば、携帯をとる時の言葉にも、さまざまなバリエーションがある。

「はい、宇宙の収縮を阻むための永遠なるラヴ・ソング作詞評議会地球日本支部です。」
「SF→スペース・ファンタジィー改名運動家のカズヒラですが。」
「はい、こちらは簡易型タイム・マシーン発注所でございます。」
「ああ、私は冬でもランニング短パン連盟名誉会長だが…。」
「ほえ?ぼく?かずひらしょうごっていうんだ。よろしくね。」
「××××××?××、××××××××××××××××××!(私のリスニング能力では聞き取り不可能。どこかの国の公用語らしい。)」

 相手の「もしもし」の声だけで、瞬時に使うべき肩書きを選別しているらしい。
 やはり、もの凄い人なのだなあ、と私はいつも思う。
 おそらく彼には、私の知らないような肩書きも、たくさんあることだろう。彼の肩書きは、電話に出るたびに変わっているような気がするし。



 私は彼の一部分しか知らないのだ。わかってはいるのだけれど、それを考えると少し……いや、かなり悔しい。
 本当は、彼の肩書きのすべてを知りたい。彼のやっている事のすべてを知りたい。それはもちろん、頼んでみたって無理なのだけれど。彼自身、すべての肩書きを覚えているとも思われない。



 私はそういう時、少しだけ皮肉めいた言葉をかけてみる。

「ショーゴには、ずいぶんとたくさんの肩書きがあるのね。覚えきれないくらい。」

 そのたびに、彼はこう言って笑うのだ。

「……確かに俺には、信じられないくらいの数の肩書きがある。けれど、そんなの、俺はなくしたってかまわないんだ。けれどたったひとつ、『お前のコイビト』だっていう肩書きだけは、今のところ無くしたくはないな。」

 その言葉を言われた私は、あきれるくらいに単純に満足してしまって、そして彼の首にしがみつく。彼も、私に手を回してくれる。
 それだけで、満足してしまう。






 私? 私のカタガキ? ……そんなの、『彼のコイビト』その一言で充分じゃない?



Fin.     




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