*Forever love?*



1 永遠に続くのは…


 それならば、せめて君と同じ薬で、君の側へ行きたい

 ……愛しい彼女の死体は、冷たい床に横たえられている。その床と同じくらいに、彼女の体も冷たく冷えている。
 彼の体温でも、その体を再び温めてやることはできなかった。それほどに冷たい彼女の体。
 熱を奪ってゆく…少し前までの彼女は自分などとは比べ物にならないほどに、熱く燃えていたのに。今では彼の心すらも、その冷たさに侵食されて、凍りつきそうになっている。

 彼は血の通った暖かい指で、そおっと彼女の顔をなぞる。
 すっととおった鼻筋、ふっくらした唇…しかしそこには昔のような鮮やかな赤は無い。ここからあの澄んだ歌声が流れてくる事は無い。
 そして、その水晶のように輝いていた瞳は、もう彼には見る事ができないのだ。

 しかしそれでも彼女はあまりも美しく…神々しくあり、彼にはまるで眠っているように見えた。

 ―――彼女がこうなってからもう二日が経とうとしていると聞いたが、彼女の体からは、死体につきものだというあの異臭がしない。それが余計に彼の思いをかきたてる。

 ―――君はどうして、僕をおいていったりしたんだい?
 君が僕から逃げようとしているのなら、僕はどこまでだって君を追いかけてゆく意思があるのに。
 そう、僕は何処までだって、君を追いかけてゆく。



 彼はそして、彼女の手から毒薬をとると、何の迷いも無くそれを一口、飲んだ。








 ここはどこ?どうして?どうしてあの人がここにいるの?どうしてこんなに冷たいの?

 彼女が目を覚ましたとき、隣には彼が横たわっていた。なぜかつながれている手は、生きている人間のものとは思えないほどにひんやりとしている。
 彼女には、一体何がどうなっているのかわからなかった。

 彼女はとりあえず、固く結ばれている彼の手をはずす。このままでは動く事もできない。そして、少し歩いてみる。しばらく歩いていなかったせいか、足元がふらつく。

 素足があまりにも冷たく、かたい石畳の感触をとらえている。
 と、彼女は彼の左手に、青い瓶を見つけた。太陽の下ならばきらきらと輝くであろう青い小瓶。しかしこの場所には光は届かない。真っ暗な、地下の…

 彼女は、全てを思い出した。



 彼女と彼の家は、敵同士だった。
 せっかく唯一の人とめぐり逢う事ができたのに、会う事すらもままならない。そして起こった様々な事件…流れた血。
 そんななかで彼女は、一つの計画を立てる。
 薬によって死んだふりをして、そして二人で逃げるという計画。

 ……あまりにも有名な物語そのままに。


 計画は完全だった。
 彼女は薬を自由にできる立場にいたし、協力してくれるという友人もいた。
 しかし、彼女は知らなかったのだ。その物語の、悲劇的な結末を…



 そうだ、今はあの薬を飲んでから、ちょうど四十二時間後。
 しかし、何故ここで彼が倒れているのだろうか。

 彼女は彼の手をとる。やはり冷たい。だが、まだ死後硬直はたいして起こっていないようだ。
 と、いう事は、彼はまだ死んでからそれほど経っていない。それならば、それならば何故自分は、彼が死を選ぶ前に、起き上がる事ができなかったのだろう。

 彼女は、自分の手のなかにある青い小瓶を見つめた。
 黒に近く見える青が、瓶のそこに沈んでいる。
 彼はこの毒を飲んで死んだのだ。私が死んだものだと思い込んで。

 幸いにも、小瓶の中にはまだ半分ほど、薬が残っていた。
 この液体が、彼の命を飲み込んでしまったのだ。
 そして、彼女はためらわずにその薬を一口、飲んだ。








 その、四十一時間後。

 ああ、死にきれなかったのか。
 彼は目を覚まし、そう思った。彼女の体は冷たいままだ。奇跡は起こらない。
 しかし、何か違和感がある。どうしようもないほどの違和感…
 どうにも、彼女の体の位置が先刻と変わっているような気がするのだが。

 ―――まあ良い。もう一度だ。ほら、今すぐ、君の元へ行くよ。

 彼は再び彼女の手から薬を取り、そしてそれを飲んだ。








 その、一時間後。
 彼女が目を覚ました……


To be continued?   






2 だけど愛なんてそのうち終わる


 ―――おかしいわ。私がさっき薬を飲んだときには、瓶の中にはまだ一口ほど残っていたのに。

 瓶のふたを開けて逆さまにしても、ほんの一滴もたれてこない。
 彼女は首を傾げてしまった。

 おかしいことはまだある。
 私が目を覚ますたびに、彼の死体の位置が変わっているような気がする。
 それに、私が毒を飲んだ後、瓶を放した記憶は無いのに、私が目を覚ますときにはいつも、青い小瓶は彼の手の中にある。
 そして…もうだいぶ時間が経つはずなのに、彼の体が腐食されないのは、何故?

 おかしいことはたくさんある。だけど…
 彼女は考える。
 だけど、あの人が死んでしまったことは事実であり、あの人のいない世界で私が生きる意味は無いのだ。

 私は彼のためだけに生きていた。他の何もいらなかった。彼が私の側で微笑んでくれないのなら、どこに幸せがあるのだろう。

 いや、どこにもない。
 あまりにも当たり前の反語。

 彼女は彼の側に転がっていたナイフを拾うと、それを自分の胸に突き刺し、彼の側へと崩れ落ちた。








 その四十一時間後に、彼は目を覚ました。
 隣には自分のナイフを胸につきたてた彼女の死体。そこから流れたらしい血液が乾いて、ぱりぱりと音を立てる。

 これは一体どういうことだろう。
 彼女は確かに、毒を飲んで死んでいたはずなのだ。なのに何故、僕のナイフを胸に刺して死んでいるのだ?

 今度の彼女の死体は、決して美しくなど無かった。かっと見開かれ、こちらをむいてうつろな瞳。死臭もする。

 彼は恐ろしい事に思い当たった。
 今まで、彼女は死んでいなかったのではないかという事、そして、自分が意識を失っているうちに、彼女の命を奪ってしまったのかもしれない、ということに。

 彼女の胸に刺さっているのは、自分のナイフである。
 このナイフを使って、もう一人の僕は彼女の命を奪った。僕は彼女の事を殺してしまいたいとでも、無意識のうちに思っていたのだろうか?僕は彼女の事を、愛してるといいながら心の奥底では憎んでいた、という事なのだろうか?

 ―――そんなはずは無い。これは夢だ。恐ろしい悪夢なのだ。

 この夢から覚めなくてはならない。今すぐ、この悪夢から覚めなくてはならない。
 彼女は死んでなどいないのだ。目を覚ませば、彼女の顔が目の前にあり、おはようと言って笑うのだ。

 彼はその悪夢から目覚めるために、彼女に刺さっている自らのナイフを引き抜き、血に乾いたそのナイフを、自分の胸へと突き刺した。

 そして、全てが終わる……彼と彼女の物語の全てが。



 愛の物語はいつかは終わる。だけど悪夢は終わらない。



The End?   








3 終わらないのは悪夢


 何故、彼女は瓶の中身を誤解したのでしょう?
 何故、四十二時間も身じろぎ一つしなかったはずの彼らの体が、腐り始めてきたりしなかったのでしょう?
 何故、はじめは存在しなかった彼のナイフが、あんなところに転がっていたのでしょう?


 それは、彼らには永遠に解けない謎。
 永遠に眠る彼らのすぐ側には、永遠に終わらない悪夢。


ENDLESS LOVE?   




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