*4月1日の童話* 携帯が鳴って目がさめた。 おかしい。昨日目覚ましのためにかけた音楽と違う。 見ると卯月からの電話だった。なんだろう。朦朧とする頭で、私を呼ぶ携帯にでた。 「はあいー?」 我ながらひどい声。まだ、酔いがさめていない。べつに飲んだわけじゃないけど。しいて言うなら幸せ酔いかな。昨日は久しぶりに大好きな人達に会えたから。 大好きな人に会って、一緒に話して。頭の中がとろけそうになるまで。 卯月の声はいつもとかわらないキャンディ・ヴォイス。二日酔いの耳にはちょっと痛い。 「ねえねえアカネちゃん!外見てみて!すごいあめ!」 雨なら昨日も降っていた。水溜りでびしょびしょのアスファルトの上を、みんなで歩いたんだもの。 何を驚いているんだと思いながら私はカーテンを開けた。 すると。 「・・・なるほど」 たしかにすごいアメだった。つつじの上にこんもりと積もっている。 そう、こんもりと、まるくて小さな飴が、そこらじゅうに。 その中で卯月は、空から降る飴玉を口に受けていた。楽しそう。まあ、卯月はいつもそうなんだけどね。 奇妙な光景だった。 そりゃあ今日は4月1日だもの。嘘だって本物になるんだから、童話が現実になったっておかしくないわけで。でも。 夢の世界で遊んでいる卯月は私とおなじ、高校三年、17歳なのだ。 子供でいることが辛くなってしまった年齢。でも大人にはなれない年齢。 童話を信じられず、実話をあがめることもできない。 だから私は小説、まだ信じられそうな嘘をえがいたし、サチはうたったし、ダイは音楽を奏でたし、ミカは絵でその隙間を埋めた。 せめて夢のつくり手になることもできずに、17歳はみんなそうやってあがいていた。なのに。 卯月は確かにそういう所があった。明るくて脳天気で、なのに夢見がちで。みんながとっくに飽きてしまった夢を一人で見続けている子だった。 「ねー、アカネちゃんもおいでよー!」 窓の外には私がとっくにあきらめてしまった夢。夢のなかで卯月が手招きをしている。 だめだよ。私が出て行ったら、きっとこの夢は終わってしまう。外へでていくこともできないじゃないか。少しばかり悔しく思う。私が夢を語ったところで、きっとそれはほんとうにはならない。わかってるよ。……あきらめじゃなくて、理解してるよ。 「卯月ー!あんたはもうちょっと面白い夢見なさいよねー!オリジナリティがないんだっていうの!」 私は窓をあけて、叫んだ。 「雨が飴になるなんて、そんなの使い古されたネタでしょうが。せっかくのエイプリル・フール、もっと有意義に使ったら?」 「えー、でも、甘くておいしいよこのドロップ!」 「あのねえ……」 さすがに私には、卯月ほど甘ったるい夢は語れない。語る資格も残ってない。そういうことなんだろうな。私ならきっと、こんな甘いだけの夢では満足できないから。 窓枠から手を伸ばして、レイン・ドロップを掴みとろうとする。 けれど、ドロップは私の手に触れるとあっさりと、雨粒になって溶けてしまう。 雨粒を舐めてみたって、甘くも何とも無い。 4月1日の童話は、ただ子供のためにあるのだから。 FIN.
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